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アクティブ運用型ETFの無限の可能性

The Unlimited Potential of Actively Managed ETFs

2022年、アクティブ運用型ETFは、世界のETFへの純資金流入額の約15%を占めました。2023年3月までに、この割合は25%まで増加しました。

2023年6月
 

フランク・クーデルカ、ステート・ストリート
ETFソリューション部門グローバル責任者

ジェフ・サルディーニャ、ステート・ストリート
北米地域ETFソリューション部門責任者

シアラン・フィッツパトリック、ステート・ストリート
欧州地域ETFサービス部門責任者

アハメド・イブラヒム、ステート・ストリート
アジア太平洋地域ETFサービス部門責任者

アクティブ運用型ETFの人気の高まりは、需給動向の変化によって説明できます。今後、こうした動向は一貫して続くだけでなく、アクティブ運用型ETFの成長とイノベーションを加速させるものと予想しています。


規制変更による供給制約の解除
2008年に米国で初めてアクティブETFが設定されましたが、市場はなかなか拡大しませんでした。1940年投資法の一部の規定を免除するために届出が必要だったためです。このプロセスは時間もコストもかかるため、設定までの期間が長引き、採算水準がつり上がる可能性がありました。証券取引委員会(SEC)は当初、2008年にETFの規制を刷新する新たな規則の検討を開始しましたが、世界金融危機の間、棚上げされました。ミューチュアルファンドと同様に保有銘柄を開示するETFを設定する動きも同時期に始まりました。

規則6c-11(ETF規則)は、条項に従うETFに対する免除プロセスを成文化しました。これにより設定に要する時間は数年から60日に短縮されました。その結果、法的費用が大幅に削減されました。2019年の規則6c-11の制定以来、アクティブETFの数は激増し、米国だけでもファンド数が325本から1,071本にまで増加しました。この規則の制定前にはアクティブ運用会社は325本のETFの設定に11年を要しましたが、750本近くの追加のETFの設定には3年余りしかかかりませんでした。

もう一つの規制変更により、ETFはポートフォリオを従来のETFほど頻繁に開示しないか、あるいはプロキシーと呼ばれる代表的な銘柄セットを使用して実際の保有銘柄を隠すことができるようになりました。これにより、アクティブ運用会社がETFを設定する道が開かれ、以前はフロントランニングやフリーライディングの懸念があったETF市場に新規の運用会社が参入できるようになりました。

これらの規制変更により、多くのアクティブミューチュアルファンドのプロバイダーは既存のアクティブミューチュアルファンド戦略をアクティブETFに転換したり、類似した戦略を取るアクティブETFを生み出したり、アクティブETFに新しい戦略を追加したりするようになりました。ステート・ストリートのデータによると、2021年初頭から約46本のアクティブ運用型ミューチュアルファンドがETFに転換し、2023年にはさらに16本が発表されています。

規則の変更はアクティブETFを市場に投入しやすくする一方、他の資産運用会社が自身の「秘密の戦略」を保持することを可能にしました。その結果、モーニングスターデータによると、2022年末までにアクティブETFを持つ資産運用会社の数は2017年末と比べて4倍に増加しました。

他の国もこの動きに追随しました。カナダは、導入度合でアクティブETF市場をリードしています。3月31日現在、アクティブETFはカナダにおける全ETF運用資産額(AUM)の27%を超えています。カナダには、以下のような、ETFに最も親和的な幾つかの規制があります。

  • ETFをミューチュアルファンドのシェアクラスとして設定することが可能
  • 保有銘柄の日次開示は不要
  • リードマーケットメーカーへの選択的な開示が要求される一方、市場全体への開示は不要

このような柔軟な規制は、ETF市場に参入するための戦略やオプションについて、運用会社により高い機密保持を提供しています。

2015年、オーストラリアでは、アジア太平洋地域の市場で初めてアクティブ運用型ETFが認可されました。2023年3月現在、アクティブETFがオーストラリアのETF市場全体に占める割合は18%に達し、5年前の7%から増加しています。この変化は、既存の上場投資会社(LIC)をETFに転換する運用会社や、新たな銘柄が相次いで上場されたことによるものです。また、オーストラリアのETF上場運用会社が現在利用できる革新的なデュアルアクセスモデルも促進要因となっています。デュアルアクセス構造では、アクティブ運用会社は非上場投資と上場投資の両方を一つの登録で運用することが可能です。その結果、運用会社は運営及び投資効率を高めることができ、投資家は選好するファンドにアクセスするためのより多くの選択肢を持つことになりました。既存のファンド構造にETFシェアクラスを追加する手法はオーストラリアの市場で拡大しつつあります。

アクティブETFは、その他のアジア太平洋地域においても人気を集めています。例えば、韓国では2017年に初めてアクティブ型債券ETFが設定され、2020年には株式ETFも設定されました。現在、118本のアクティブETFがあり、韓国のETF市場全体に占める割合は18%近くに達しています。同様に、中国では2020年に最初のアクティブETF設定が承認され、現在では中国のETF市場の9%近くを占める32本の商品があります。東京証券取引所とシンガポール証券取引所では、2023年にそれぞれの国内でアクティブETFを設定可能にする規則変更が予想されます。

現在、アクティブETFは欧州で最も急成長している分野です。ETFリサーチ会社のETFGIによると、2023年3月、欧州に89本のアクティブETFがあり、運用資産額は259億米ドルでした。一部のアクティブ運用会社が当初抱いていた保有銘柄の日次開示に対する懸念は今や払拭されており、従来型のミューチュアルファンド運用会社がETF市場に参入して、通常はミューチュアルファンドにのみ見られるアクティブ戦略を適用しています。欧州連合の金融サービス責任者による最近のコメントでは、ミューチュアルファンドの販売を促すインセンティブとして銀行、ブローカー及びディーラー、プラットフォーム、アドバイザーに対する報奨や手数料の禁止を支持していることから、欧州におけるアクティブETFの活性化のきっかけとなる可能性があります。ETFはこのような見返りを伴わないため、こうした禁止措置は公平な競争環境をもたらすと考えられます。長く待ち望まれた個人投資戦略が5月24日に公表され、市場参加者に明確さをもたらす見込みです。また欧州市場では、プラットフォーム上で利用可能なアクティブETFが拡大し、コロナ禍後の欧州で大きく成長している比較的未開拓のリテール市場において商品が広く利用可能になっています。


投資家の需要が変化を牽引
アクティブETFは、ETFとしての構造に内在する効率性とアクティブ運用が提供し得るアルファ創出力という両面の強みを兼ね備え、投資家の間で大きく勢いを増しています。FactSet によると、2022年、投資家は特に低コストの株式および債券ETFを選好しました。全キャッシュフローの80%近くは、経費率が業界平均の44ベーシスポイント(bps)を下回るETFに流入しました。アクティブ運用型株式ETFの平均の報酬率は、2019年水準の半分未満である0.38%まで低下しました。アクティブ債券ETFも同様に0.37%に低下しました。FactSetは、報酬率の圧縮が続く場合、アクティブ株式ETFの報酬率は2023年末までに0.31%まで低下すると予想しています。

一部の法域におけるアクティブETFのもう一つのメリットは、税効率です。非課税構造の枠外で投資するミューチュアルファンドの投資家は、米国では不利な税務処理を受けます。投資家は、ポジションを清算する際にキャピタルゲイン税を支払わなければならないだけでなく、他の投資家が清算したためにファンドに利益が出ているポジションを売却せざるを得ない場合にも課税されます。ETFは現物償還できるため、投資家の解約に応じて証券を売却する必要性は最小限に抑えられます。これによってファンドが実現するキャピタルゲインの金額は減少するため、投資家の税負担を軽減できます。構造上の特性により、ETFはこの後者の要素に概ね影響を受けません。ペンシルベニア大学ウォートン・スクール・オブ・ビジネスの研究者たちは、ETFの需要は主に税制上の考慮によるものであることを明らかにしています。1

ETFは低コストの有価証券の売買においてミューチュアルファンドよりも高い柔軟性を投資家に提供し、取引日全体を通じて交渉価格で幅広い株式ポートフォリオを再現します。アクティブETFは現在のアクティブ運用ミューチュアルファンドに比べて、より幅広い投資の選択肢を提供することで、この柔軟性をさらに拡大します。そのため、投資家が注目され始めた市場のトレンドを利用したり、市場の不利な展開に素早く対応したり、あるいはより高いリターンを獲得することに貢献できる可能性があります。これはアクティブETFが株式市場や債券市場の潜在リスクをなくすことができるということではありません。しかし、投資家が株式や債券などの資本市場へ投資する際に、自らの選好により適したソリューションを見出すことを可能にするでしょう。インフレの高進と利上げにより、市場は短期的にボラティリティの高い状態が続くと予想されます。アクティブETFは、現在の変動の激しい投資環境において投資家が求める柔軟性と分散化を提供します。


アクティブ運用型ETFの拡大とイノベーションの加速
アクティブ運用型ETFは、拡大するETFユニバースのまだごく一部です。ETFGIによると、アクティブETFは約10兆米ドルにのぼる世界のETF市場の5.5%にすぎません。アクティブETFの二桁成長は過去数年間に起きたばかりです。そのため、この分野には拡大の余地が十分にあり、一部のアナリストは今後5年間で8倍近く、3兆米ドルまで成長すると予想しています。2

私たちは地域的拡大による成長の加速を予想しています。例えば、アクティブETFの割合は欧州のETF市場の2%未満ですが、2023年の同市場で最も急成長しているセグメントです。最近のレポート「ETF 2023 Outlook」によると、今年、欧州市場におけるETFの成長を推し進める多くの規制上の変更があります。

さらに、資産の分散化がアクティブETFの成長を促進する見込みです。2017年には、アクティブETFの大半は債券ファンドとして保有されていました。2022年には、株式ファンドが圧倒的になりました。3アクティブ債券ETFの運用会社は、金利の変化に応じて債券を素早く乗り換えることができるという付加的な利点により、大量の資金流入を経験する可能性があります。より流動性の低い債券市場へのアクセスを容易にするため、投資家がETF商品の流動性に目を向ける中、単一債券ETFの新規導入や精密なターゲット戦略は成長を加速させる要因になるでしょう。

最後に、構造やテーマに関するイノベーションは続きます。サステナブル投資、暗号通貨、バイオ革命などの人気の高まりは、アクティブETFの成長要因になる可能性があります。また、テクノロジーもアクティブETF分野の進化をさらに加速させることでしょう。例えば、人工知能や機械学習を利用することで、資産運用会社は変化する市場環境により適応できる高度な投資戦略を開発できる可能性があります。4

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