2025年8月
小林 浩
ステート・ストリート信託銀行
ジャパン・カントリーヘッド
取締役副会長
ステート・ストリートの新たなレポート「2025年 プライベート・マーケット展望:不安定な環境下で成功を導く」によると、金融商品のイノベーションと新たなテクノロジーはプライベート・マーケットの民主化を加速しています。本レポートは、世界各国の480の機関投資家を対象とする最新の調査に基づき、日本の機関投資家に影響を及ぼす最も大きなトレンドを明らかにしています。
本レポートでは3つの重要なテーマに焦点を当てています。これらのテーマのそれぞれが、プライベート・エクイティ、プライベート・クレジット、不動産、インフラストラクチャーの未来にとって意味があるものです。
プライベート・マーケットの民主化
本調査は、プライベート・マーケットにおけるリテール商品へのシフトに焦点を当てています。日本の機関投資家の63%は、今後わずか2年間のうちに、プライベート・マーケットにおける資金調達の少なくとも半分がリテール商品によるものになると回答しています。
セミリキッドファンドの成長を引き出すには幾つかの新展開が必要です。日本の機関投資家の50%は、この分野における商品イノベーションが必要不可欠であると回答しています。さらに、日本の回答者の60%は、プライベート・マーケットにより投資しやすくするためには、リテールおよびDCファンドにおける原資産の流動性要件を緩和することが重要だと述べています。
質の重視
投資戦略には、量から質への変化が今や定着しています。プライベート・マーケットへの投資はリスク管理の手段と見なされています。例えば、日本の機関投資家の42%が、公開市場から得られる少ないリターンに懸念を抱いており、そのことからプライベート・エクイティへの資産配分を増やしています。
質への逃避は、資本配分計画における新興国市場から先進国市場へのシフトにも見られます。昨年と比較して、本調査の大半の回答者が欧州先進国を非常に優先順位の高い投資先とみています。ただし、日本の投資家は優先順位が異なります。日本では60%の機関投資家が北米を最上位の投資先に挙げています。加えて、アジア太平洋(APAC)先進国も、日本の回答者の半数にとって優先順位の高い投資先となっています。
プライベート・マーケットにおけるAIの導入
AI(人口知能)革命は既に進行しつつあります。日本の機関投資家の10分の9超(93%)は、体系化されていない(非構造化)情報をさらに活用するために、生成AIベースの大規模言語モデルを利用する機会があると認識しています。これは本調査におけるすべての市場の中で最も高い割合です。さらに、半数以上(53%)はAIを既に活用しているか、活用に向けた投資を実施しており、調査対象の他市場に先行しています。
本レポートでは、市場のボラティリティと地政学的不透明感が高い時期にプライベート・マーケットが強靭性を示してきた理由、および上記の3つのトレンドによって最も恩恵を受ける可能性が高いプライベート資産クラスを探っています。