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デジタル資産の次なる局面と日本の機関投資家への示唆
日本でデジタル資産の活用に向けた動きが広がる中、機関投資家は、トークン化、デジタルカストディ、次世代の決済インフラの活用について、より具体的な検討を進めています。
2026年10月
小林 浩
ステート・ストリート信託銀行
ジャパン・カントリーヘッド
取締役会長
ステート・ストリートが機関投資家を対象に実施した「2026年版デジタル資産調査」は、デジタル資産市場が実証実験の段階を超え、本格的な導入フェーズへ移行しつつあることを示しています。その実現に向けては、業務運営体制の確立、規制の明確化、そして信頼できるインフラの構築が重視されています。こうした動きは、日本の機関投資家にとって注目すべきテーマです。
検討段階から実践的な活用へ
当社が5年前にデジタル資産調査を開始して以来、デジタル資産をめぐる機関投資家の議論は大きく変化しました。当初は、主に暗号資産やブロックチェーン技術が持つ可能性に関心が集まっていました。しかし現在では、デジタル資産を投資商品や既存の業務プロセス、さらには金融市場インフラ全体にどのように組み込むかが焦点となっています。
最新の調査結果は、デジタル資産が投機的な関心の対象から、機関投資家による実務的な活用の段階へ移行しつつあることを示しています。また、アジア太平洋地域(APAC)の機関投資家は、この変化がさらに速いペースで進むと予想しています。デジタル資産が今後5年以内に主流になると考える回答者の割合はグローバル全体で51%だったのに対し、APACでは56%に達しています。
この動向は、日本の機関投資家に重要な示唆を与えています。デジタル資産活用の成熟度や導入ペースには差があるものの、議論はより実践的な内容へと展開しています。
デジタル資産の活用拡大を見据え、それを支える基盤を構築することが重要です。暗号資産、トークン化資産、デジタルキャッシュを含むデジタル資産への平均配分比率は約11%ですが、グローバルの回答者は今後3年間で17%まで拡大すると予想しています。こうした見通しを踏まえ、将来的な投資拡大に備えた業務運営体制や市場インフラの整備が進んでいます。
業務運営体制の構築に向けて
調査では、デジタル資産がテクノロジーそのものにとどまらず、カストディやファンド管理業務から、決済、発行、トークン化に至るまで、金融サービスのバリューチェーン全体に大きな影響を及ぼしていることも明らかになりました。こうした準備はAPACで特に進んでおり、回答者の7割以上が、すでにデジタル資産の運用や関連サービスの提供を行っているか、あるいは需要に対応するためのインフラやサービスプロバイダーとの連携体制を整えていると回答しています。
日本で拡大を続けるデジタル資産市場では、こうした論点への注目が一段と高まっています。実際、APACの回答者の32%は、今後5年以内に運用資産の少なくとも4分の1がトークン化されると予想しており、この割合はグローバル全体の28%を上回っています。業界では、セキュリティトークン、トークン化ファンド、デジタルカストディ、ステーブルコイン、デジタル決済インフラをめぐり、多くの議論が進められています。具体的には、資産の保有・管理、取引の決済、そしてこれらを支える管理体制や統制が主要な論点となっています。
このような動きを背景に、業界ではデジタル市場と従来型市場が共存するハイブリッドなモデルが志向されています。日本の機関投資家にとって次なる課題は、両者を大規模かつ一体的に運用するとともに、既存の市場インフラや業務プロセス、投資モデル、オペレーティングモデルにどのように組み込んでいくかにあります。
信頼、レジリエンス、そして規制の明確化
デジタル資産市場の成熟に伴い、インフラへの信頼がデジタル資産の普及を左右する要素として重みを増しています。調査では、デジタル戦略の推進を後押しする要因として、規制の明確化が最も多く挙げられました。また、回答者の69%が、サービスプロバイダーを選定する際に、適切な規制の枠組みの下で事業を展開していることを重視すると回答しています。サイバーセキュリティや財務基盤の健全性も、サービスプロバイダーを見極めるうえで重要な判断材料になっています。
規制や業界における議論が進展する中、これらの調査結果は、日本の機関投資家にとって今後の対応を検討する際の参考となります。市場参加者やサービスプロバイダーにとっては、健全なガバナンス体制、オペレーショナル・レジリエンス、強固なサイバーセキュリティを確保し、規制に適切に対応することが、市場からの信頼につながります。
パートナー選定では、テクノロジーだけではなく、サービスプロバイダーの規制対応に関する実績、財務基盤の健全性、そしてオペレーショナル・リスクを適切に管理する能力も、デジタル資産に関する専門性と並んで問われます。これらは従来の金融市場において重視されてきた要素ですが、デジタル資産市場においても不可欠な要件となりつつあります。
高まるデジタルキャッシュの重要性
デジタルキャッシュは、市場インフラにおいて重要性を増しています。調査では、回答者の64%がデジタルキャッシュの主要な活用領域としてトークン化資産の決済を挙げました。これに、常時決済や流動性管理が51%で続きました。
トークン化証券やトークン化ファンドのメリットを最大限に引き出すには、迅速な決済、効率的な流動性管理、業務プロセスの自動化が鍵となります。その実現には、デジタルキャッシュを含む資金決済インフラと、トークン化資産の決済インフラの整備が欠かせません。また、トークン化MMF(マネー・マーケット・ファンド)は、日中流動性や担保管理の手段としても注目されています。
日本の機関投資家にとって、デジタル資産の本格的な導入を見据えるうえでは、投資、カストディ、アドミニストレーション、流動性管理、決済をどのように連携させるかに加え、それらを支えるインフラが十分な堅牢性と拡張性を備えているかを検証することが重要です。
デジタル資産活用を支える基盤の構築は着実に進んでいますが、準備状況や優先課題は機関投資家ごとに異なります。日本の市場参加者に求められるのは、こうしたグローバルな動向が、自らの投資目標や規制環境、業務上の要件にどのような影響を与えるのかを的確に判断することです。
実証実験から本格導入への道のりは、一様ではありません。しかし、デジタル資産の可能性を実際の価値へと結びつけるためには、信頼性の高いインフラ、実効性のあるガバナンス、そして強固なオペレーティングモデルが不可欠です。